薬物療法各論

各論の前に

主な疾患別に、当院での薬物療法の概略をまとめました。もちろん、患者様ごとの特性を考慮して極力「飲み心地」のいい処方を探っていきます。

いわゆる「ガイドライン」的なものを勉強されてこられている患者様や御家族の方は、ここに書かれて言えることと、各種「ガイドライン」の違いが気になるかもしれません。当院が「ガイドライン」を必ずしも絶対視していないのにはいろいろ理由があります。「ガイドライン」で示されるアルゴリズムは、多くの比較対照試験を経て科学的に決められている部分もありますが、製薬会社等の(影の?)政治力、阿吽の呼吸で決められている部分もあります。例えば、臨床研究の多くは古い薬よりも新しい薬を対象に行われる傾向があり、製薬会社も新しい薬を強力にプッシュする傾向があります。これは企業の立場からすると当たり前のことですが、新薬の開発のために厖大な研究開発費が投じられており、それを回収し利益を上げることが至上命題になっているからです(ちなみに、古い薬に比べると、新薬の薬価は圧倒的に高額です)。研究者も新しい薬を対象にした方が、研究費が得られやすくなります。その結果、古い薬には「応援団」が誰もつかず、研究の俎上にすらのぼらないことがしばしばです。しかし、現実を見ると、高い新薬よりも、古くて安い薬の方が患者様によっては効果があるということもしばしばあるのです。もちろん、新薬が悪いなどと言うつもりはありませんし、副作用が改善された結果、患者様の利益になっていることも多いです。しかし、他の業界と同様、メーカー側の宣伝を鵜呑みにするのは避けたいところです。

ちなみに、公平な立場からなされたメタアナリシス(多くの研究結果を集めてさらに解析した研究)では、古い薬、新しい薬をふくめて、その効果に大きな差はないという結果が出ていることもあります。これは患者様に「どの薬を出しても同じ」ということではありません。個々の患者様は統計上の数字ではありません。患者様と薬ごとに「合う、合わない」という相性の問題は確実にあります。患者様にとっての「飲み心地のいい処方」「最適な処方」を一緒に探していくことが臨床医の仕事になります。